OVERVIEW
日本の災害対応の現場はいまも多くがアナログな運用に支えられています。
神奈川県のコロナ対策や、能登半島地震の現地支援を通じて、防災の最前線に関わってきたワークログ。受託開発やノーコード導入支援を軸とする一民間企業でありながら、災害医療システム「EMIS」のリプレイスや、現場で即席の仕組みを構築する役割まで担ってきました。
そんな山本が考える「これからの防災DX」とは何なのか。リクライブ編集長・二宮との対談を通して、災害の現場で見えてきた課題と、その先にある可能性について語ります。
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山本純平
ワークログ株式会社 代表取締役(CEO)
1987年生まれ。2019年にワークログ創業。神奈川モデル企画や自治体DXを推進し、能登半島地震でも防災DX支援。官民連携で現場課題の解決に挑む。
最近、“カオス整備屋”を名乗り始める。 -
二宮翔平
リクライブ編集長
リクライブ編集長。1991年福島生まれ。4,000本超の動画・Podcastを制作するインタビュアー兼コンテンツプロデューサー。
日本の防災は、想像以上にアナログ
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二宮
そもそも「これからの防災DX」って何ですか?
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山本
僕は神奈川のコロナ対策と、能登半島地震とか現地支援もしてきました。防災のキャリアとしては5年ぐらいで、いろんな災害を全部見てきたわけじゃないんですけど、それでも感じたのは、今の日本の防災ってめっちゃアナログだなってことなんですよ。
例えばDMATって呼ばれる、災害時に派遣される医師や看護師の方がいますよね。災害現場に行って支援する時って、現場がめちゃくちゃアナログで。壁中にホワイトボードシートみたいなのを貼り出すんですよ。で、あとからシステムに入力したりする。
紙に情報を書いて、印刷して、見回りに行く方に配って、訪問して手書きして。本部に帰ってきても、それをデータ化しきれずに机の上に山積みになっていく、みたいな。
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二宮
それで現場は回るんですか?
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山本
現場だけなら、回るんですよ。例えば住宅にひびが入っていて避難が必要なら、避難所に案内すること自体はできる。問題は、防災って県と国と市町さらにNPO法人や支援団体とか、いろんなプレイヤーが同時に動く。
ある団体が集めたアセスメント情報、被災状況の情報に、県がアクセスできない。そうなると県からしたら、どこに誰が避難してるか分からないし、誰に何のサービスを届けたらいいか分からない。情報連携できないと詰まるんです。
結果として、団体も市も県も似たようなヒアリングを何度も何度もすることになる。
被災者の方からすると「これ、この前答えたぞ」っていうことを繰り返し聞かれる。
ここがめちゃくちゃ課題だと思ってます。
医療の初動を支える「EMIS」
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二宮
その話の流れで聞きたいんですけど、EMISって何ですか?
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山本
EMISは厚生労働省が所管する国や都道府県、全国で使われているシステムです。
災害時に医療機関や、DMAT(災害派遣医療チーム)の医師・看護師の方々が情報連携のために使う仕組みです。
例えば東京都で災害が起きたら、都内の医療機関が続々とEMISにログインして、病院の被災状況を報告します。ガスが止まってる、一部倒壊している、火災が起きてるとか。それを見たDMATの方々が、どこに何人送り込むかの計画を立てる。これが災害医療現場の初動なんです。
EMISは10年以上前に作られた既存のものがありまして、僕はそのリプレイスに携わってました。
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二宮
リプレイスって、何から何に移したんですか?
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山本
もともとフルスクラッチで開発していたものを、ローコードツールに置き換えました。
イメージとしては、Salesforceとかkintoneみたいな、比較的柔軟にカスタマイズできるものに置き換えた、という感じです。
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二宮
なんでリプレイスしないといけなかったんですか?
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山本
フルスクラッチって、どんな機能でも作れるのはメリットなんですけど、あとから改修するのが弱いんですよ。例えば項目を1個追加したいだけでも、データ設計を見直して、画面も作り直して、開発してテストして、って工程が必要で、時間もお金もかかる。
災害って現場の方に聞くと「同じ災害は一つもない」んですよ。コロナみたいに想定してなかったことも起きる。これからもっと大きい地震が起きるかもしれない。
そう考えると、災害があるたび、あるいは災害の最中にカスタマイズできるぐらいのスピード感が求められる。それがスクラッチ開発だとかなり厳しいんです。
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二宮
それでローコードに。スケジュール感としてはいつから?
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山本
調査が始まったのが2023年の冬ぐらいです。そこから1年、厚労省側で要件定義が進んで、その後開発がスタートして、2025年4月から新しいEMISとして運用が始まりました。
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二宮
順調ですか?
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山本
順調は順調です。ただ幸い、今年度に入ってまだ大きな災害が起きてない。正直、一生使われなきゃいいんですけどね。とはいえ、研修では結構使われていて、そこで出た課題を今一生懸命解決しているところです。
現場で突貫で埋める領域がゼロにならない
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二宮
そこから、防災DXについて何を感じてるんですか?
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山本
2防災DXって、どこまで行っても必要な機能が想像でしかない。もちろん想定して機能開発はするんですけど、残りの1割なのか2割なのか、5%なのか分からないけど、災害現場で何らかの対応しなきゃいけないことはゼロにならないと思ってます。その部分をどう補うか。
現場に入って、ざっと要件を聞いて、こうかなって仕組みを作るんですよ。すごい簡単な仕組みで、単純なWebフォームかもしれない。でもEMISに登録できない、今定義されてない情報が必要なら、それを追加で収集する仕組みを作らなきゃいけない。
例えば、能登半島地震って冬にありましたよね。電気ガス水道だけじゃなくて、暖房機器の有無が命に関わった。だから高齢者施設の被災状況を管理する仕組みを作ったんですけど、運用しながら項目をどんどん追加していきました。
医療機関に対して暖房機器の有無を聞き取る運用って、当時は標準で入ってないから、システム上も登録できない。じゃあ追加でどう情報を収集するかは、簡単なWebフォームかもしれないし、とりあえずFAXで受けてOCRでデータ化するのかもしれない。そこは現場で突貫で作っていくしかないと思ってます。
民間のデジタル人材を現場に派遣する
「D-CERT」という動き
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二宮
最近、デジタルコーディネーションセンターってものに関わってるって聞きました。
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山本
僕が理事として関わっている組織なんですけれど、今年の4月か5月ぐらいに、デジタル庁がD-CERT(*災害派遣デジタル支援チーム)という組織の立ち上げを発表しました。民間のデジタル人材を災害現場に派遣する仕組みを、制度化しようとしている流れです。
例えば、能登の時も基本プロボノ前提で、みんなボランティアで入ってる。よくやるなって自分でも思いますけど、今後は変えていきたいですよね。
やっぱり、防災って儲からないんですよ。
日本ってボランティアを美学とする文化もあるし、「災害で儲けてんじゃねえよ」って声が出るのも分かる。でも、企業が入ってこないと、防災DXって市場が育たないと思ってます。だから国からお金がつくような事業にしていかないといけない。
用語解説 *災害派遣デジタル支援チーム:大規模災害時に、被災都道府県に入り、災害対応に必要と考えられるデジタル支援メニューの提案、支援内容を具体化し、被災都道府県の災害対応を円滑に進めるための活動を行なう。
平時に投資しないと
同じものを何度も作り直すことになる
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二宮
予算は、平時に割くべきですか?それとも起きた時に頑張るべきですか?
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山本
僕は平時に予算を割くべきだと思ってます。
コロナの支援でも仕組みを作ったんですけど、落ち着いてくると作ったシステムがどんどん閉鎖されていくんですよ。じゃあ次に何か起きたらどうするの、って言うと、もう一度作ることになる。
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二宮
また同じことをするのはコストですよね。
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山本
もったいないですよね。全国で同じことが起きてるはずです。
平時から予算がつかないと、検討もできない。避難所運営に必要な機能って何だろう、プロトタイプを作ろう、みたいなプロジェクトも、自治体は動かせない。
だからどこも、災害が起きてから慌てて考え始めるんですよね。
国と自治体と民間。
プレイヤーを増やし続けたい
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二宮
今後、山本さんとしてはどうなっていきたいですか?
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山本
国の話なので、僕1人がやりたいって言って変わるものじゃない。だから国とか県とか自治体に対して、意見できる立場に居続けられるかは僕個人の課題です。
その上で、防災に関わる企業を増やしていかなきゃいけないと思ってます。ワークログ1社で全国のどんな災害にも耐えられるかって言うと、当然無理なので。
だから国がやるべき。ただ国がITに強いかというとそうでもないので、ちゃんと民間の人材が現地に入る枠組みを作らないといけない。そこに関わるプレイヤーを増やしていくのが大事だと思ってます。
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二宮
そうなると今後デジタル庁に入るしかないんじゃないですか?
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山本
いや、デジタル庁というよりかは、民間の立場で意見をし続ける方が良いかなと思います。まずは、デジタルコーディネーションセンターとして、D-CERTという団体をしっかり立ち上げて運用を回していくところに携わっていきたいですね。
僕に限らず、現地に入って支援ができるような人材を増やしていかなければいけないと思っています。
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二宮
そういうところに目を向けてる人って希少だと思うので、関わり続けてほしいですし、届けていきましょう。
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山本
そうですね。将来的には、僕をモデルにした映画ができたらいいなと思いますね。笑